夜露を 含んだ 粘土を 足踏みで ほぐし 手の ひらで たたみ 空気を 抜く 序章は 小さな 祈りに 似ています。 水を 少しずつ 与え 表面が つやを 帯びたら 指先で 伸ばし ちぎり 重ねて 性格を 探ります。 細砂の ざりっとした 音が 混ざれば 形の 保ちが よくなり 焼きの 前に 生まれる 収縮も 穏やかに ととのい 仕上がりの 安定へ 静かに つながります。
回転台の 中心に 据えた 塊へ 胸の 高さで 視線を 合わせ 吐く息の 長さで 指の 圧を 決めます。 速さを 欲張ると 形は すぐ 崩れますが ゆっくりと 上へ 引き上げる 時間に だけ 生まれる 肉厚の 均一が 手を 守ります。 失敗の たびに 水を 切り 形を 潰し もう一度 中心へ 戻す 往復が 不思議と 心を 軽くし 習熟の 実感を 積み 重ねます。
焚き口へ 薪を 差し入れる たび 乾いた 匂いが 走り 炎は 舞う ように 形を なぞります。 火前に 立つ 人の 影は 壁へ 伸び 時間の 濃淡を 作り 釉薬の 流れが 偶然を 招き 入れます。 温度計より も 信じるのは 音と 匂いと 色であり 小さな 炉の 窓から 見える 線の 揺れが 焼き上がりの 兆しを そっと 教えて くれます。
銅鍋の 縁に 集まる 泡の 微妙な 大きさが 温度の 合図で そこへ 媒染の 塩や 灰汁を ひとさじ 加えます。 昨日より も 一滴 多い その 差が 驚くほど 仕上がりを 変え 同じ 植物でも 季節で 表情は 別人に なります。 記録帳へ 香り 色の 変化 時間 体感を書き 留め 翌年の 山で 再会した 時に 同じ 深みへ もう一歩 近づける 目印と します。
経糸の 張りを 指で 弾き 音を 聴き 分け 緯糸を 通す 速度を そっと 調整します。 踏木の 圧が 軽ければ 模様は 霞み 強ければ 角が 立ち 布の 手触りが 変わります。 反復する 打ち込みの 音は 川の せせらぎに 重なり 風景の 記憶を 目に 見える 角度へ 編み替え あなたの 生活へ 滑らかに 橋を 伸ばして くれます。
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